よろず相談所
「蜜柑ちゃんー。焼き鳥買ってきたよ~」
事務所に脳天気に入ってきたのはかずたけコンビ。
毎週くるな。
「またまたー。会いたいくせにー。」
「焼き鳥食わないの?」
炭と焼き鳥のタレの香ばしい匂いが事務所に充満する。
お腹すいた…。
ここを飲み会会場にするな。
そう言いながら、焼き鳥1本奪う。
「ん?飲みながら待つけど、待ち合わせスポットじゃん?」
「土曜夜市行こうかと思って。」
「ゆみこと中学同級だった女、さくら。」
ここ(事務所)までくるの?
「ゆみこがここまで来るわけないじゃん、あははは」
「蜜柑ちゃんだって嫌でしょ?」
なんでここで時間潰すんだよ!
「家帰ってたらすぐゆみこの門限になっちゃうじゃん。」
こないだ、楽々門限突破してたよね?
「あれは…まあ…あれで…1回門限までに帰ってそれから出てきたんだし…」
「あのう、すみません」
見ると事務所の入り口に中年の女性が立っていた。
あ、はい。何でしょうか?
営業用の声に切り替えて笑顔を作る。
「あの、こちらで娘がお世話になったと聞きまして…」
うっ後ろにゆみこちゃんが立っている。
ああー、もしかして。
「小林と申します。大変お世話になりました。一言お礼を申し上げなければと娘と参りました。」
すげぇ。淀みない大人の女性の発言。
すっと後ろを振り返るとかずとたけがビールやらジュースやら焼き鳥やらをバタバタと持って散った。
あの、すみません、汚くしてますがどうぞ中へ。
「あら、かずくん、こんばんは。今日はゆみこたちと出かけるのよね?」
「はい。土曜夜市へ」
「ゆみこのことお願いしますね。もう出かけますか?」
「あ、そうだな、うん。行こうか!」
私の机の上に飲みかけもかまわず雑に置いて、若者たちは去っていった。
ゆみこちゃんは、怖い顔してたけど、入り口で私に向かって小さく頭を下げて出て行った。
たいした進歩じゃないの…。
「これお口に合えばいいんですが。」
と地元の菓子メーカーの菓子を差し出した。
どうもお気遣いいただきまして。
と受け取る。ゆみこママ上品だな。
腰を落ち着けると、ゆみこママは言った。
「あなたに説教されてから何かあの子も感じ取ったようで、断酒する、復学する、人生を取り戻すと言いまして。」
説教ばばあうざいと言われましたが。
と思ったけど言わなかった。
「かずくんやエリちゃんも居てくれてます。私や主人じゃどうにもならなかったことがあなた方が関わってくれたおかげで前進いたしました。本当にありがとうございました。」
私、ほとんど何もしてないですよ、あはは。
「この先もっと理不尽なことが一杯あると言われた、と言いました。」
いや、そんなのないに越したことはないんですけどねぇ。
「男の1人や2人に捨てられても全然平気って言えるくらい強くなるんだって」
そうですね。私もそうありたいです。
そもそも捨ててくれる男すら居ないが…とひとりごちる。
「今後も相談に乗ってやってください」
ゆみこママはそういうと何度も頭を下げて帰っていった。
うち…いつからよろず相談所になったのか?
来るのは暴走気味のガキどもだけじゃないか。
まだだいぶ残ったビール缶を流しに流してふと鏡を見る。
口元に焼き鳥のたれがべったり付いたままゆみこママと偉そうなお話しちゃってた。
がーん。誰か教えてくれてもいいのに。