過去日記

天然な女なんていない

朝夕も、かなり秋めいてきた2012年9月、突然かずたけが金髪をやめて黒髪にして事務所に訪れた。

えー、何どうしたのその頭!墨でも被ったか!

「なんで、そういう発言になるかなー。」

「え?墨で髪染められるの?」

激しくズレてる。天然か…。

「やっぱり金髪なんて10代までじゃね?」

「ちょっとシックに大人の男になろうかと。」

今度は何に影響受けたんだろう?

「いつまでもヤンチャな見かけじゃご近所の目線も厳しくて…」

「ちゃんと働いて税金も納めてるのにね…」

何やら、思うところがあったらしい。

それにしても、いつも2人セットで同じ行動するのね。

「こういう場合残ったほうが批判の対象になるの!片方は真面目になったのにお前はいつまでも…とか言われんの!」

「人を見かけで判断しちゃいけません、って嘘っぱちだよね。」

一応苦労してんだね。

「そうだよ!」

2人は勝手に冷蔵庫を開けて、「缶コーヒー貰うねー」と言って取り出し、ささっと着替え、そしてそのまま座ってパズドラを始めた。

何しに来てるんだか…。

「ゆみこちゃんとエリちゃんと待ち合わせてご飯食べに行くんだよ?」

ここを待ち合わせスポットにするなっつーに。

「だってここ街に近いし、車置けるし、ゆみこんちに近いし、エリちゃん職場近いし…」

「ま、色々便利ってことで!」

勝手にスマホまで充電されている。

あんたらやりたい放題じゃん。

「そのうち住み着くかもねー。」

そうなったら潔く事務所を畳もう。

そう思ったとき、ゆみこちゃんエリちゃんがやってきた。

「蜜柑さんこんばんはー。」

「お、髪が黒くなってる!」

「本当だ。いいじゃん、2人とも。うん、すごくいい。黒のほうが断然いいよ、男前上がる!」

「聞いた?蜜柑ちゃん。」

「さすがエリちゃんは解ってるねえー。」

「人はこうやって褒めるんですよ?」

「墨被ったかとか普通言わないよね。」

いや、まさか自らの意思で金髪を黒髪に染めようと思うと思ってなかったもんでね。

でも、墨で染められるの?って聞き返すのも変だよねぇ?

エリちゃんは笑った。

「少しは染められますよ。髪洗うたびに落ちるでしょうけど。子供のころ習字の授業で服に墨汁つけて、母にぶん殴られたの思い出します。」

バイオレンス母ちゃん…。

「服に付いたら落ちないよね、墨汁って。」

普通に洗うと落ちないよね。一旦乾くと余計落ちない。

「うち、子供のころ墨汁ぶっかけられたことあるのよね。」

それは、意地悪で…?

「んー多分?」

「私も墨汁くらいぶっかけてやりたいって思ってたよ?」

「エリ酷くない?」

「ん、全然?」

「でも酷いなあ、普通思ってもやらないよね。」

「私はやってないわよ!」

「いや、ゆみこのほうだよ。」

「やったの、さくらなんだけど?」

突然、険のある目でかずを見るゆみこちゃん

さくらって、どっかで聞いたな、誰だっけ。

「かずくんをうちに紹介した女。」

こちらもまた険のある物言いだ。

なんだ仲悪いの?

「悪くはないけどー。多分、どっかでうちが揉めておかしくなってるって噂聞いたんだと思う。高校卒業してから会っても話してもないのに突然電話してきて。」

ほー。

「男の子紹介してあげるーとか言うわけ。なんだこいつって思って、断ったんだけど、しつこくて。」

お節介おばさんみたいな子なのかな。

「それともちょっと違う感じだけど。」

「えーさくらってそんな感じじゃないのに。」

「いつもにこにこしてて、ちょっととぼけてて普通にいい人って感じ。」

「そうそう、天然さんっていうか。」

「全然違うー。」

男の前と女の前じゃ態度が違うって人なのか。そういう言い方したらゆみこちゃんと同類じゃん。

ちょっと笑った。

「全然違うー。」

ゆみこちゃんは憤慨した。

「なんか上手く言えないけど、さくらは違うの。」

なんか一人でモヤモヤしているらしい。

でも結果的に2人は付き合うことになったわけだし、感謝しとけばいいんじゃない?

「だから面白くないんだよ、それが。」

「常に波風立てようとしてるんですよ。」

エリちゃんが笑って言った。

波風?

「まー簡単にいうとかずくんには他にも女が一杯いるはずとかそういうことを一々ゆみこに吹き込んでるんですよ。」

…。

「うちに直接言ってくるんじゃなくて、共通の友達に言ってるの。んで、その友達が心配して教えてくれたり。」

「蜜柑さんも一杯いる女の一人に挙げられてるらしいですよ。」

…今すぐ連れて来い。締めあげてやる。

「元ヤンこわーい。」

元ヤンちゃうわ!

「蜜柑ちゃんだけはない。」

同じセリフを返すわ!

「これだけ入り浸ってたらしょうがないのかもよ。」

ゆみこちゃんは笑っていった。一時期の敵対視はどこに行ったのか…。

自分は正しくいい人のポジションを保ったまま人の不幸を楽しんでる人なんじゃないの。

「あーそんな感じ!ゆみこのためを思ってってすぐ言う。」

「いい子で天然と思ってたけどなー。」

「甘いなあ、かずくん。天然な女なんていないのよ?いるのは計算高い女か、本物の馬鹿かだけなの。」

すげーごもっとも。

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