小さいおじさんにストーカーされた話
2012年、冬、夕刻ともなると外はとっぷりと暮れていた。
その頃、尼崎事件が発覚した当時で、TV報道はほぼその事件に関する報道ばかりだった。
かずとたけは事務所にやってきてソファに沈み込んでパズドラばかりやっていたが、たまにちらっと事件報道を見ては「この事件、人間関係がよく解らないよなー。」「一体どれだけの人間が殺されてるんだろう。」「胸くそ悪いわー」などと言っていた。
その時、携帯電話が鳴った。私は着信者の名前を見て無視することに決めた。
「蜜柑ちゃん、最近携帯の着信見てスルーしてるよね。」
2人ともスマホの画面から目を離してもいないのに状況を把握している。
「何?借金取り?取り立て?」
なんでそうなるんだ。うちは自転車操業だけど借金はしてないよ!
借金出来ないとも言うけどな。
「じゃあ宗教勧誘。」
そんなツワモノいねーよ。
ご近所さんなんだよね…電話してくるの…。
「ご近所トラブル?!」
そういうんじゃないんだけどさー。
近所のおじさんが家にあった原付バイク譲ってくれってやってきてさ。
「原付持ってたんだ。」
壊れてるんだけどね…。
父が「あれは娘のだから娘に聞いてくれ」って電話番号教えちゃったのよ。
「そのご近所さんが電話してくるの?」
そそ。
「トラブルになったの?」
いやストーカー化した。
2人は大爆笑した。
「ちょっとおっさん」、「なんで蜜柑ちゃんに」、「ある意味ツワモノ」などの単語が聞き取れたが笑いっぱなしだった。
あんたら笑いすぎ!
「原付は譲ったの?」
正直に壊れてる、修理には相当な金がかかると思うよ、って言ったら即御破算になったよ。
「その代わりストーカー化したと。」
うん。朝は6時過ぎから電話がかかってきて夜は12時くらいまで続くよ。
一日20回は掛かって来る。
「えー。」
「そりゃ相当やん。」
「ばしっと断ったの?」
相当酷い断り方したんだけどねー、めげない、こりない、折れない。
「なんて言ったの?」
背が高くないと無理、とか政治経済の話が出来る人じゃないと無理とか。
「蜜柑ちゃん政治経済の話なんかしないじゃん。」
知らないからな。でも敵はもっと知らなさそうだったんで。
「背が高くないと無理とか結構酷い。」
向こうの理想のタイプの女が「俺より背の低い女」だったんだよ!
「え?」
「なにそれありえん」
2人はまた笑った。
ちびいおっさんなんだよね…。
「え?」
目線がほとんど変わらない。160cmないくらいのちっさいおじさん。
「それ、あの不思議系芸能人がよく言ってる…」
「都市伝説の…」
小人じゃないんだってば。
とにかくそのおっさんが毎日毎日電話してくるの。しんどいの。
話す内容がまた最も嫌いな系統の「昔ヤンチャだった俺。昔すごかった俺。」に集約されちゃってるオヤジなの。絶対無理なのお断りなの。
「どんなすごかった俺なん?」
バブル期の金の使い方とかさ…。女にこれだけ貢いだとかさ…。
「それ自慢になるん?」
100%なんねーよ。
「俺とたけで蜜柑ちゃんに付き纏うな!って言いに行くよ?」
DQN同士意気投合されたら困るからやめて!
「意気投合するわけないじゃん!」
「ちっさいおっさんなんか軽い軽い!」
お心遣いはありがたいんですがね…。面倒になりそうなんでお気持ちだけで…。
ちっさいおじさんは未だ半年に1回着信がある。