嵐の予感(梅雨入り)
「なんとボクおデート誘われちゃいましたぁ」
事務所に入ってくるなり脳天気ぶりのかず。
毎日雨降りでホントだるいね。梅雨だしね。
「そうですねぇ。相方の脳みそにもカビが生えてきたみたいっす」
「お願い、ボクの話も聞いて」
映画でもドライブでもカラオケでもボーリングでも飲みでもなんでもいいから行って来てください。
「なんでそこまで先回りするかねー、おばさんせっかち」
田舎だからデートなんてそのくらいしかないじゃん。
「そうなんすよね。なんかこうもっと変わったデートってないっすか」
どういう相手なの?
「よくぞ聞いてくれました」
「中学の同級の女の友達なんだ。保育園で働く保母さん!」
へぇ~保育士さん。
「1回あったけど可愛いし大人しい感じで、へへへ」
ほう
「向こうからもう一回会いたいって言ってくれたらしくて、へへへ」
なんかムカついてきたな。こいつ殴っていい?
「どうぞどうぞ」
「速攻付き合ってって言われたらどーしよー。ふへへへ。電話しようっと、仕事終わったよーって」
気持ち悪いな。
「完全に浮かれちょる」
たけ、なんか落ち着いてるし、余裕あるわね。普段だったらもっとこう苦虫噛み潰したような顔してんのに。
さては、こないだの新人キャバ嬢…
「あ、いや!LINEだけ、LINEだけ。」
何よ、なんでそんな慌てた反応なの。
「あのそうじゃなくて。可愛いしいいんだけど彼女になってっていうのはどうかな…大学生だし」
何それ?
「俺中卒だし、やっぱり話合わないっていうか!結婚ってことになったら絶対反対されると思うし」
付き合ってもないのに一足飛びに結婚まで行くなよ。
「ああーうん。そうだよねえ」
たけったらなんか急に意気消沈した。 これはマジなのか。
「今晩ファミレスででも一緒にご飯食べようってことになったじょ、うへへ。向こうも友達連れてくるっていうからさー。たけちゃんも一緒に行こうよ来るよね。」
「いいけど、お前の奢りな」
「いいけど、お前は俺のよいしょ要員な。俺が如何に良い奴か真剣に言いなさい」
そんなかさ上げ、すぐ剥げちゃうだろうに。
そう思いながら笑いながら見送った。
翌日、たけだけが事務所へバイクでやってきた。
これは何かあったなとそれだけで解る。
いやだなぁ。なんかトラブル?
「ううん、そこまで行ってないけど…」
「蜜柑ちゃんだけには言っとこうかなって」
何?
「かずの彼女候補の友達がさ」
告白されたとか?
「ちっがーう。俺ら猿かよ」
「ええと、ゆみこちゃんね、かずの彼女候補」
うん
「友達がエリちゃん。でエリちゃんが言うわけさ」
「ゆみこちゃん、前の男と超トラブって傷害事件を起こすようなことになってて先月まで入院してたんだって」
うわぁ。DV男とかそういうの?
「逆。ゆみこちゃんがストーカー化して刃物振り回すとかそういう感じ。」
マジっすか…。
「で、エリちゃんが『かずくんにやり捨てとかだけはやめるように言っといてね』って」
「ねえ、かずにどう言えばいいと思う?てか、あいつら今日も会ってるはずなんだよね」
この後、ゆみこちゃんは色々やらかしてくれることになる。