意外なスキル
「あんなに真剣にフォローするから!つっといて、その後一週間休暇とかまじ蜜柑ちゃんて鬼だよね、信用できない。」
夏の連休を終えて事務所に出たその日に訪れたかずとたけは開口一番、文句の嵐だ。
ちゃんと電話は繋がるようにしてたじゃない。万全のフォローよ。
「まさか、厳しくするのが俺たちのため、とか言い出すんじゃないよね。」
「ライオンが崖から子供落とすみたいな。」
あーそれ嘘だから。そんなことしてたらとっくにライオン絶滅してるから。あいつらネコ科よ?舐めるようにして育てるに決まってるじゃん。
「いや、今そんな豆知識要らないから。」
「話逸らししてんじゃね。」
「おまけに社長は機嫌悪いしさ。」
「おまえらが蜜柑にばらしたんだろつって。」
何、痔の手術を糖尿病と偽ってたこと?
「俺ら、口止めされてなかったんだから仕方ないよね。」
「蜜柑ちゃんにかっこつけてどうしようっていうんだろね。」
うーん、糖尿病と痔だとどっこいどっこいな気がするな。
「で蜜柑ちゃん、社長に嫌味言いに行ったの?」
いやー、痔とか言ってないよ?あたしゃ。
ただ、ちょっと病院調べてお見舞いに行ってそんでもって、最近の糖尿病は外科病棟に入院すんのか~(ニヤニヤ)って言ってみただけ。
「ストレートじゃない分、質が悪いというか」
「悪魔だね。」
うん、まあ、私がDQNだったね!これは!
反省はしてないけど。
「俺ら、休みもなかったのに~」
「夏が終わってしまう~」
あんたらセミか。
そういえば、あんたら、毎週のようにキャバとか行ってたのに最近全然行かないね?
「行きたいけど、ゆみこちゃんが…」
「そうゆみこがブチ切れるから」
ああ、そういうことか。ははは、あれじゃ行けないよねぇ。
「俺、ゆみこちゃんに『あんたが行くのは勝手だけどかずくん連れて行ったら生きて帰れると思うなよ』って言われた」
ひ~。
「俺だって『キャバ行ったら生きて帰れると思うな』って言われたよ。」
まあ、あんたは自業自得だからしょうがないよね。
「金は残るようになったけど自由がない!」
「なんで俺も一緒に自由なくしてるの…」
「そう、先週地元の友達とバーベキューとジェットスキーって企画してたのに!」
「ゆみこちゃん一人に潰されちゃった。俺も禁止だって。かずがついて行きたがるだろうからって。」
誰かジェットスキー持ってるの?
「△△くんちにあるよ。3台くらい。」
ああ、病院の息子くんか。さすがはお金持ち。 船舶免許は?
「うち、漁師だもん。持ってるよ。2級と特殊小型。」
「俺も付き合いで取りに行った!」
特殊小型?そんなのあるの?
「ジェットスキーは特殊小型船舶ってのが必要なんだよ。」
「知らないの?」
全然知らねー。4級小型船舶で時代が止まってる。
「ほら。」
財布からペロンと免許を出して見せてくれた。
わー、これがそうかー。初めて見た。髪が黒いじゃない。若いし。へー意外なスキルだ。
「若いよねー17だったし。あれ、これもう来年には更新じゃん。」
「最近全然船乗ってないよね。」
「早朝にうちに来れば親父が乗せるぞ。強制労働付き。」
「もう嫌々乗せられたよね~!あははは、ホントめっちゃ辛かった!」
2人とも漁してたんだ。
「ぶらぶらしてたら碌なことにならん!ってね。」
「でも、冬場の海に連れだされたらゆとり死んじゃうの」
「だから、別の仕事をさせてくれ!って頼み込んで南社長んとこに。」
社長、恩人じゃん。あんま痔とかいじめちゃだめじゃん。
「いじめてるのは蜜柑ちゃんじゃね?」
あんなネタいじられて当然じゃん…。