過去日記

焼き肉女子会

突発的な事故により、事故当事者かずたけ、車所有者南社長が来ないまま、私とゆみこちゃんエリちゃんは焼き肉を食べに行くことになった。

南社長が、「せっかく来てくれたのだから申し訳ない、後で飲食代支払うのでおまえが連れて行ってやってくれないか」と言いだしたので、断れなかった。

事故処理が済めばすぐに行くから、とも言ってたし、何せ、胃袋を空にしてまで楽しみにしているエリちゃんも居る。

あんまり大人げないことも言えないものだ。

タクシーで焼き肉屋まで乗り付けて、エリちゃんゆみこちゃんを見つける。

ごめんね!お待たせしたみたいで。

「蜜柑さん、こんばんは。事故って大丈夫なんですかねぇ?」

エリちゃんは言った。

ゆみこちゃんはピコピコスマホで顔上げもしねぇ。こいつ。

と思ったら、顔をあげて「これ!」と言ってスマホの画面を私の方に向けた。

見慣れた軽トラが横っ腹からぐしゃぐしゃになってる写真だ。

うわぁ~、これは廃車かもしれないねぇ~。

覗き込んだエリちゃんも、「これは乗れないっしょ。」と言っている。

「何、心配で食べてらんない?今すぐ駆けつけたい?」

エリちゃんが冷やかすようにゆみこちゃんにいうとゆみこちゃんはケロッとして言った。

「すぐ行くから好きなもの食ってろ、だって。」

「怪我してないのかな。」

頭割れてても食べに来そうで怖い。

「食い意地張ってるもんね。」

ゆみこちゃんはそう言って笑った。

来るっていうんなら心置きなく先に特上カルビとか行っちゃおうぜ。

「意外と黒いですね。」

「太るから食べないんじゃなかったんですか。」

特上だったら太ってもいい。というか食べきるつもりで来た。

ゆみこちゃん、あんた飲めるの?

「一応飲むつもりで来たんですよ。お父さん迎えに来るって言ってるし。」

「ええ、マジで?薬は?」

「もう飲んでないよ、全然。」

お手柔らかに頼むわね。生ビール?

頷くゆみこちゃんエリちゃん

すみません、生ビール3つと、特上カルビ3人前、こっちの盛り合わせでかいの。牛タン3人前。あ、あんたらご飯食べる?

エリちゃんは「肉オンリーで!」と答えゆみこちゃんが「うち、ご飯欲しい!ライス小で!」

とりあえず以上で。

店員さんは注文を復唱してから、お飲み物すぐお持ちしますね、と戻っていった。

「マジで特上頼みやがったよ…この人」

「うち、特上食べるの初めてかも。」

「私もギリ上カルビかな。特上初めて!」

社長の奢りだそうだし。いいもん食わなきゃ勿体無い!いい?ウインナーとか食べんじゃないわよ。

「そりゃーかずくんもたけくんも必死になってこようとするわけだわ。」

もっとも彼らは質より量だと思うけどね。

店員さんがビールジョッキを運んできて1つずつ並べていく。

「では乾杯」

「特上カルビに」

乾杯~。

ああ、美味しい。生きててよかった。

「その前に」

ゆみこちゃんが姿勢を正す。

「蜜柑さん、この前はすみませんでした。」

一瞬、呆気にとられた。

え?あの?

「暴言やら何やら…。すみませんでした。」

あんた、人に謝れる子だったの?

「必要があったら謝りますよ!」

もう憤慨している。

「本当は、夜市のときに謝ろうと思ってたの。でもお母さんが…」

ゆみこちゃんのお母さん、上品よねぇ。

「その上品なのは結構なんですけど。色々先回りしてしまって。」

「そうよねー。あれやっといたから、これやっといたから、ああ、ゆみこちゃんは何もしなくていいのよー、お母さんがやっておくから。そういうタイプよね?」

ゆみこちゃんは大きく頷いた。

「うちは親離れ、お母さんは子離れが今年の目標なんですよ。馬鹿みたいだけど。夜市の後凄い喧嘩もしましたけどね~、あはは」

優しい虐待ってやつなのかなぁ。

「お父さんにもゆみこばっかり見てないでパートでもして他のことにも目を向けろって言われてたんだけど。」

ゆみこちゃんはビールを一口飲んだ。

「うちのバイト先のコンビニにバイト応募してきた。」

がくっ。

肉と野菜が運ばれてきたので3人で焼き始める。

あんたもしなくていい苦労してるわけねー。

「勿論お母さんだけが悪いわけじゃないです。うちがおかしかったから必死になってくれてたのも解るし。」

そうよね。

「私は優しくていいなあーと思うけどね、ゆみこのお母さん。」

肉を鉄板に並べながらエリちゃんは言う。

「うちは完全に毒親だからさー。なんでゆみこのお母さんと仲がいいのか解かんないけど。」

毒なの。

「蜜柑さんもたけくんもかずくんも父子家庭だって言ってたけどうちは母子家庭なんですよね。母はわりと男出入りが激しいタイプで更に言うなら酒飲みでギャンブルも好きっていう典型的なやばい人ですよ。」

なんだ、うちの母と一緒じゃん。バツ4くらいまで行ってポックリ死んじゃったんだけど。

「それもすごい。」

「ゆみこだけじゃん、両親揃ってるの!」

まあ離婚率の高い県だしね、ここ。

「社長って人はどうなんだろう?」

南社長?んーお母さんはもう亡くなってたんじゃないかな?離婚家庭じゃないみたいだけど。

「じゃあゆみこと社長さんだけが離婚家庭じゃない、と。」

いやでも子供置いて嫁さん行方不明になってるよ、社長。

「だめじゃん。」

「社長も父子家庭やってるんだ。」

もう子供さんは独立してるけどね。

「虚しいですねえ。結婚てなんだろう。」

私もバツ1だもん、全然人のこと言えない。

「蜜柑さんも?お子さんは?」

いるよ。半引きこもりっぽいのが。

「ええー引きこもり!いくつ?男?女?」

男。17かなぁ。

「見てみたいなー。」

「え、じゃあほっといていいんですか?晩ごはんとか」

流石に小さい子じゃないから。

自分でなんでも作って食べるよ。

「うち、去年まで玉子も割れなかった…」

どこのお姫様だよ。

「焼けたから取り敢えず食べましょうよ」

うん!いただきます!

特上カルビ、うまい!

「おおー美味しいですね。」

「本当、美味しい!」

こっちはロースかな?ばんばん焼いちゃおう。野菜も焼こう。

それから飲んで食べてよくしゃべった。

ゆみこちゃんが元カレにされた酷い話。

エリちゃんのお母さんのぶっ飛んだ話。

私の元旦那のとんでも話。

ぶっちゃけ話ばかりだったけれど話題はあっちに飛びこっちに飛びしながら、それでもとても楽しく飲んだ。

「女だけでこういう話もいいもんですね。」

エリちゃんがすっかり上気した顔でそういうとゆみこちゃんが言った。

「正直、男の人がいたら、うちこんな話出来なかったかも。変に構えるというかかっこつけるというか。」

「それはあるよねー。」

事故処理してる彼らにはちょっと申し訳ないけどねぇ。

また女子会しましょうね~とエリちゃんが笑った。

それから、10分ほどして事故処理3人組が到着した。

「すっかり出来上がってるところに参加すると妙な疎外感あるよね。」

と文句を言いながらも彼らは私たちの3倍は飲んで食べた。

車は?

「ありゃもういかん。廃車や。」

すごい衝撃だったみたいよね、2人ともなんともないの?

「頭とか打ったわけじゃないし。」

「全然、大丈夫大丈夫。」

でも、明日すごい筋肉痛になると思うよ。明日がたのしみだわ。

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