笹子トンネル天井板落下事故
先日とは別の日。
「またネットニュースばっか見てー。」
たけが私のパソコンを覗き込んで言った。
今日は、事務所に入ってくるなりイソイソと2人着替えていた。
どこかに遊びに行くんだろう。
社会情勢を知ることを否定してはいけません。
「はいはい、蜜柑ちゃんはすごいすごい。」
説教モードに入ったのを察知されたか、素早く逃げの体制を取った。
「あー、トンネル崩落の事故かー。」
「ほんと、不運だよねー。」
うん。それ考えちゃうのよね。運命を別けるのってなんだろうって。
たまたま、その時にここを通ってたって運、なんなんだろう。
「一台、直撃されたものの走り抜けた車いたよね。」
うん、紺色のインプレッサ。
「その運もすげぇ。」
「俺だったらそこで車停めちゃいそうな気がする。」
「インプレッサの性能の勝利なのかなあ。やっすい軽四だったら逃げきれてないかも。」
いい車だよね、インプレッサ。スバルの評価もうなぎのぼりだ。
「いいよねー。俺もインプレッサ買おうかなー。」
いや、あんたたちは絶対ワゴンだと思ってたよ。しかも後ろに黒いフィルム張った…。
「完全にうさんくさいチンピラ扱い。」
「傷つくわー。」
インプレッサってやっぱり渋い男が乗ってるイメージだもん。豆腐屋の走り屋オヤジとか。
「イニDまで守備範囲かよ。」
「流石、ヲタク!」
余計なこというんじゃなかった。
「直撃されたワゴン車があったよね。」
若い子のグループだったね。レンタカーだったみたい。
「燃えたんだっけ。」
燃えてる。けど、この車に乗ってて助かってた女の子がいるんだよね。
「え?ぐっしゃりだよ?」
そうなんだけど、助かってる。気づいたらトンネルの外に居たとかで、記憶がないとか。
「不思議。」
「何、オカルト?超能力?」
解らない。でも、脳って生命の危機に瀕したらフルパワーで動くんでしょ?物がゆっくりに見えたりとか。
そういう現象で飛び降りて走り去ったとか?
「テレポートとかさー。」
足に火傷してたって書いてるから、燃え出したときには車付近に絶対居たんじゃない?
「インプレッサも奇跡だけど、その女の子も奇跡すぎるわー。」
「でも良かった、とか言えないんじゃない、友達が5人も死んじゃったんなら。」
言えないねー。変な罪悪感とか感じちゃったりしちゃうかも。
「高速道路だから100キロくらいでは走ってるよね。」
「時速100キロってことは1分1キロ?」
ちょっと待て。1時間は100分じゃないぞ。
「...あーっ。」
「馬鹿がバレた。」
60分÷100キロだから0.6分。秒数にして36秒。
電卓を見せると、もごもご言った。
「いや、ちょっと勘違いしただけだから…。」
崩落した箇所は138mだそうだから、時速100キロでその下を抜けるなら時間にして5秒弱だね。
電卓に表示された4.968という数字を見せた。
「5秒の命運か。」
点検でちゃんと異常が見つかってればこうなってなかったのにね。
亡くなった方のご冥福をお祈りします。