花見の陣
2012年の春、花見のお誘いをいただいた。
その前年はかの大震災の年で、全国的に自粛ムードが吹き荒れていて、直接被害のなかった地域でも花見どころではなかったし、沈んでいたと思う。
今年は盛大に、とは言わないけれど花を楽しむ1日くらい持とうじゃないか、ということでありがたくお誘いを受けることにした。
私は知人の自営業の経理を担当している。
その知人からのお誘いであったが、1つ、面倒くさい条件をつけられた。
「誰でもいいから女の子呼んで」
知人の自営業は建築業関連だ。職人さんにほぼ女性はいない。
「誰でもいいからって…」
「ホント、職人さんには50歳独身なんてのもゴロゴロおるし、女なら60歳くらいまでOK!勿論若い子もOK!国籍不問!女の子に見えるなら中の人に◯◯◯付いてても気にしない!」
「…」
2012年、4月初旬花見の日は早朝とても冷え込んだけれどよく晴れた。
姉と姪と妹を強制招集し、自分ちの近所で働く友人も強制招集した。
その友人が同じ会社で働く同僚もを招集してくれた。
そして彼女らの勤務先は食品加工会社なので、皆が気の利いたお惣菜を持ち寄ってくれた。ありがたい。
総勢12人で宴会場(公園だけど)に向かうとすでに敷物とかはセッティングされていて、職人さんたちが缶ビールを片手に所在無げに座っている。まだ全く出来上がっていないせいで、場違い感が凄い。
「南社長!お招きありがとう!今日はよろしくっ!」
姉(酒豪)が社長に声かけると社長が破顔した。
「助かるよ~、こちらこそよろしく~」
そうして花見が始まった。
「随分、職人さん少なくね?こんなもん?」
社長にそう問うと
「30人くらい声かけたんやけどー…宴会は遅れてくるのが当たり前って人ばかりやしねー、もうちょっと待ってみて。電話もしてみるし。」
言葉通りにポツリポツリと職人さんたちは増えていき、社長から「女の子いっぱい来てくれた」との電話連絡を受けてケーキや和菓子を携えて来てくれた人たちもいた。
中でも食品加工会社に勤務のソフィアちゃん(ブラジル人)が迫力ある美人で、おぼつかない日本語なのに愛想よく絶大な人気っぷり。
おじさんたちが「ソフィアちゃんソフィアちゃん」とこぞって声をかけて輪を作っていた。
何事もなく気持ち良い宴会で行けそうと自分が確認したときに、彼らはやってきた。
真っ白なスーツの若い男金髪2人組。
花見に白スーツ。なんだこれ?
女性陣は一斉に引いた。
男性陣は一斉に笑った。
「本当にその格好でくると思わんかった!」と。
社長から「女の子もいるから早くこい」という電話を受けて、「何着て行ったらいい?」という彼らの動転ぶりに冗談のつもりで「成人式のスーツでいいんじゃないか」と言ったら本当に着て来たということだった。
えーそれで成人式だったの君ら…。
チンピラじゃん…。
一瞬で空気を読んだソフィアちゃんが
「わお!ステキです!」
と叫び、笑いに変え、なんとか輪に引き入れ宴会は続行したけれど、
金髪白スーツはずっと浮いていた。
通りかかる人がぎょっとして2度見する程に。