祭りの夜1
その日もジトジトと小雨が続く土曜の夕方。
「今日ほら、祭りじゃん」
いつもこの祭りって雨だよねぇ。 まあ梅雨時ど真ん中だからしょうがないけどさ。
「ゆみこと待ち合わせてこれから行くつもり~えへへ。蜜柑ちゃん今日何時まで事務所いるの?」
私ゃ月末でまだ仕事あるわー。今日だって休日出勤なんだよ。多分9時くらいまでいるんじゃないかな?
「じゃあここに車おかせてもらっちょこー、いいよね?」
いいけど、飲んだら置いて帰れよ?ちょっとなに服脱いでんの…。
「ナマ着替えー。作業着で祭り行けってぇの?」
奥の部屋で着替えてよ。外から見えるじゃないさ。
こんなお天気なのに浴衣の女の子がちらほら通る。
あれっ?たけはどうするの?車も使わない?
「俺はここでたけが戻るまで蜜柑ちゃんと飲んでることにする」
勝手に決めるな。しかしデート終わり待ちってなんなの…。
「ゆみこちゃんの門限が現在9時でして!かずがゆみこちゃん送って行ったら飲みに行こうってさ」
すごいアホらしい。
「じゃ俺時間ないから行くぞ。またあとでな!」
かずは小雨の降る中ビニール傘を持って走って行った。
大丈夫なの、あれ。
「ゆみこちゃん?うーん。かなり慎重に付き合ってるとは思うけど」
DQNらしくなくてびっくりだよ。
「俺ら女、子供、年寄り、動物には優しいのがモットーだから。ははは。そういうと女受けいいし!」
なんだそれ。聞いたことないわ。
「安心して。蜜柑ちゃんもちゃんと年寄り枠に入ってるから」
いや、そこ女枠でいいでしょ、叩き落とすぞ。
「俺、そこのコンビニでビール買ってくるわ」
んじゃあ、その斜め前の焼き鳥屋さんで焼き鳥も買ってきてよ。30本くらい。
「あ。もうやる気ですね?」
うまいんだよ、そこの焼き鳥。あ、これでビールも買っていいから。
5千円渡す。
「うは。ごちになります。」
たけは傘もささないで小走りに走っていった。
今日は仕事にならないな。しょうがない明日日曜だけどやるか。そんな気分になった。
「マジうまいっすね、この焼き鳥」
たけは、ビールを飲むよりもさきに焼き鳥に齧りついた。
うまいっしょ。 あそこのおばちゃん、もう年だしヘルニアきついし暑いしもう店やめるやめる言いながら年中無休で働いてるんだよね。
「末永く続けてもらいたいもんですな」
で、なんなの。
「相変わらず察しがえいねぇ。話が早い!」
あんたが居残るってそういうことでしょうが。
「エリちゃんが仕事終わるのが9時でね。エリちゃんエステのお姉さんなん。エリちゃんと飲みに行くがよー」
なるほど。
「蜜柑ちゃんも出来れば来て欲しいけど」
え。
「なんか俺難しくて!」
取り敢えず飲むか。グビグビっと。
何が難しいの?
「いや心の病気とかー」
私だって詳しくないわい。
「そこはやっぱり人生経験豊富ってことで」
生きた年齢だけかい。
「エリちゃんも出来れば蜜柑ちゃん来て欲しいって言ってるし。ここの近所で飲むからさー、お願い」
んー腹減ったからいいか。居酒屋な。
「ありがとう!恩に着るー」
そんなことでゆみこちゃん抜きなのね。
「いや、それもあるけど。ゆみこちゃんのお母さんがやっぱりすごい心配してるみたいで」
そら心配でしょうね。でもさー。ここで人のデート待ちながら飲むわけ?めっちゃ私ら不毛やん。
「でも祭りデートキャンセルとか言ったらゆみこちゃんが発狂したみたいでね」
まじ不毛。
2時間も過ぎたころ、デートを終えたかずが合流して、事務所近くの居酒屋に移動した。
「たけも蜜柑ちゃんもへべれけやん!」
とかずに非難されたが、これが飲まずにやってられるかい、と足を踏んでやった。
「わー3トン乗ったー」
などと叫ばれたけど知らない。お腹すいた。
私、ジャーマンポテトと焼きそばとたこわさとかつおのたたき。それにビールね。
「よく食うなー」
その間もずっとかずのスマホはポロンポロンと鳴っている。メニューも見ないでスマホを弄り倒してるかず。ご苦労さまです…。
エリちゃんが来るまではかずはずっとスマホに付きっきりで、私とたけは延々なぜかNARUTOの話をしていた。
「こんばんは、お待たせしました」
まとめ髪のしっかりメイクの綺麗なお姉さんが声をかけてきた。
この子がエリちゃんか。
はじめまして。保護者です。
「無理言っちゃってすみません。はじめまして。あ、生ジョッキで。」
素早い。仕事出来そうだ。
「ゆみこからかずくんとお付き合いすることになったって聞きましたけど…。」
「そう。付き合うことにしたよ」
かずがにへらと笑う。
幸せそうじゃん、馬鹿。
「LINE」
かずのスマホを指差す。
「ウザくない?」
「んー大丈夫。エリちゃん来たし電池ないからまた明日ねって言っといた」
エリちゃんとたけと一緒ってゆみこちゃんは知ってるの?
「知らせずバレたときのほうが恐ろしいですから」
エリちゃん顔が怖いよ…般若ってるよ…。
「ええ。まあ相当迷惑しました。今回は表向き私とたけくんもちょっとお互いよく知り合いたいなと思ってるからかずくんにもお付き合い願うということになってます。」
なるほど。
店のお兄さんがエリちゃんの生ジョッキとお通しを置いていく。
「お腹すいちゃった。取り敢えず飲ませて貰っていいですかね?」
エリちゃんはにっこり笑って乾杯したあとジョッキ1/3くらい開けた。
「なんかエリちゃんて蜜柑ちゃんに似てるよなー飲み方とか」
「俺もそう思う。しゃべり方とかも似てる」
ごめん、私もシンパシー感じちゃったよ…。
「あはは、私達いい飲み友達になれますかね?」
「ゆみこが元カレと付き合い出したのは去年の8月です。」
エリちゃんは唐突に切り出した。
つづく