87CLOCKERS 全9巻 感想
87CLOCKERS 二ノ宮知子
終わってしまいました。87CLOCKERS…。
のだめカンタービレは、アニメ化もドラマ化もされて、人気の作品だったけども、
正直、なんでこんなニッチなオーバークロック?!って思いました。しかも少年誌。
私、PC自作erだし、10年以上前にはOCもやったんですけど、勿論、自作PCを作る上での話。
OC競技にはまるで興味がない。精々、作ったときにベンチマーク回して見る程度。
いやーやっぱり失敗して壊したときのダメージでかいし…。焼いたらすんごい匂いしますからね、基盤。
激ケミカル臭。何やったんだ!って猫と家族が慌てます。
物語
主人公、一ノ瀬奏はヴァイオリン専攻の音大3回生。
将来の目標や夢を描ききれずガツガツとやっている同級生たちとは多少距離があり、それを悩んでいないわけではないが、何をどうすればいいのか解らない。
そんな冴えない日常を送っていた奏はある雪の日アパートの前に裸足で佇む美女を見かけ恋に落ちる。
合コン帰りまた同じアパートの前で泣きながら佇むハナを見かけ、酔った勢いで声をかける。
しかし、そこで吐き気が…。猫の餌入れに吐くもアパートから男が出てきて美女に「液体窒素もってこい」と怒鳴り、2人はアパートの部屋の中に消える。
美女に男がいたのかとショックを受けるも美女がDV被害に合っているのではと思い、翌日アパートへ様子を見に行く。
アパートの裏手に回って様子を伺うとそこには昨夜の横暴男がゲームをやる姿が。
がっつり覗き込んだ奏はすぐ見つかり、部屋に通される。
横暴男はオーバークロック世界記録保持者のミケ、美女はミケの助手をやっているハナ。
奏はミケにオーバークロックをやってみればいい、とパーツの押し売りをされる。
ハナ目当てに奏はオーバークロックの世界に足を踏み入れることになる。
二ノ宮氏の漫画のキャラクターはみんなアクが強く面白い。
横暴で自己中なミケ(名字は猫屋敷らしい)
才色兼備だけどオーバークロックのことになると人格が変わってしまうハナ(名字は中村。実家はリンゴ農家)
薬科大学生なのにゲーマーからオーバークロッカーになりキャバクラでアルバイトするジュリア(憧れの人はミケ)
小学生の頃からハナに惚れ続け何度も振られているけど未だ諦めきれずSNSに片思い日記を綴る大企業御曹司ぼっさん。(本名は火切俊充。若干おデブ)
以下ネタバレあります。
ハナ目当てにオーバークロックを始めた奏だけど、ミケのあまりにも酷いハナの扱いに憤慨。
「ミケは一番でないと、そのためには自分がいないと」というハナに「僕が一番になったら彼と別れて僕と組んでくれますか」と問う。
驚くハナ。その後ここで一瞬、ハナは僅かに笑うんですよね。
なんの笑いなのか…。オーバークロック初心者がいきなり世界記録更新を目標にするわけで。
奏はそもそも最初からハナを「女」としか見ていない。その部分が透けて見えたのか。
ハナには家族をも(権力的に)籠絡している年季の入ったストーカークラスの同級生がいる。
それ以外にもハナに外見だけで好意を寄せる人もいる。
でもそれはハナにとって嫌悪の対象でしかないらしい。
ハナがミケを好きになった理由は「最初から一度もわたしのことを女としてみてないところ」と
「オーバークロックにしか興味がないところ」
ハナという女の子は複雑な上不毛すぎます。なんだそりゃ、です。
物語ラスト、ラスベガスでのオーバークロック対決で苦戦しているミケの元へ「顔も見たくない」と心にもない言葉を投げつけ、ハナを送り出す。
これで、自分は失恋だと心得てるよう。
苦戦するミケの元へようやくたどり着いたハナはギャラリー席からミケに叫ぶ。
「誰のために戦ってるの!?何のために戦ってるのー!?」
その言葉で初心に立ち返ったミケはワールドレコードを更新し、無事逆転勝利。
しかし勝利の宴会の最中、奏が「ハナの持てうる最善の人脈とコネと知識」で作り上げたマシンでミケの持つ世界記録を一瞬、塗り替えてしまう。
奏は本来負けず嫌いであるのに、意識的に勝負を避けて生きてきたけれど、
それは負けたときの辛さに直面するのが嫌で避けてきたことを自覚する。
ハナを手に入れたくて夢中になったオーバークロックは、楽しかった。
でもそこで終わりなんですね。
奏は本来の音楽で生きていくことに立ち返り、ロンドンに旅立ちます。
主人公、成長のEND。物悲しさはあるけど清々しい終わり方でした。
一方、アメリカに残ってオーバークロックをやっていくんだ、と言ってたはずのミケは日本のボロアパートに戻っていた。
彼も進化し、そして基本に立ち返ったひとり。
ミケのアパートを訪れるハナ。「わたしをここに置いてください!」
多分、甘い恋物語にはならないのでしょうが、2人の気持ちには通じるものがあったような?
落とし所はここしかない、という結末でした。
二ノ宮氏は、オーバークロッカーの知人から話を聞いて、その世界を書くことに決めたと言っていた。
技術的なことやその世界の内側の話などを取材して知ることは出来ても、漫画作品として
ここまで落とし込んで書ききれる才能は見事だと思う。ストーリーテラーとして秀逸。
画力は、私は好きなんですが、いまいちハナが誰からも惚れられる「美女」という点はわかりにくかったかなーと思う。
正直、ジュリアや葵と大差なく見えるし…。見た目普通の子じゃね?と。
でもこのご時世、バイトとオーバークロックに明け暮れてて卒論とか就活とか全然!と言ってた割にはさっくり内定貰ってることを考えるとやっぱり才色兼備なんでしょう、うん。裏山。
のだめカンタービレは連載が終了してからも時々その後番外編が書かれているけれど、87CLOCKERSも出来れば、少しだけその後が見たいなあ。
ジュリアと奏は一体どうなったのか、すごく知りたい。
考えてみたらジュリアだってハイスペック美女だったんだよなー。
ハイスペック出過ぎだよ。